緑色の果実
初めて肉体的な快感を得たのは、五歳の時だった。
その時、私は鉄棒で遊んでいた。そこは小さな公園で、滑り台とブランコと、鉄棒しかなくて、遊びに来る子供も、ほとんどいなかった。
公園には私一人しかいなかった。ブランコと滑り台を遊び尽して退屈した私は、遊んだことのない鉄棒に興味をもった。
幼稚園で他の子供たちがやっていたのを思い出し、見よう見まねで、頭ほどの高さの鉄棒に飛びついた。
前回りはこうするのかな。頭にイメージを描いて、ぐるんと勢いよく体を回転させる。
お腹が痛い。元の位置に戻った私は、前回りを苦痛に感じた。腹痛を感じない鉄棒遊びはないものかと、地面に立って考えた。しばらく考えると、園児たちが腹に響かない回り方をしていたのを思い出した。
私は鉄棒に飛びついた。両足が地面から離れた。右足のみを鉄棒に引っ掛け、左足はそのままに、前回りの要領で回転する。
これは面白い。腹の負担を考えずに思う存分に回転を楽しむことができる。三百六十度の角度から公園の景色を楽しみつつ、ぐるりぐるりと五回ほど回転した時だった。股間の部分に、何とも言えない気持ち良さを覚えた。
それは今までにない感覚だった。お風呂に入った時の気持ちよさとも違い、おいしい物を食べた時のそれとも違う。でもなぜか、とても気持ちが良い。気持ちが良いとしか言い表しようがないくらいに気持ちが良い。
もしかしたら、あらゆる肉体的快楽の中で、一番に気持ちの良いことなのかもしれない。そしてそれは、大人の男女が行うことで、何かとてもいやらしい行為につながるのではないのだろうか、と幼いながらも私は薄々感づいていた。
それから私は暇さえあれば鉄棒で快感を得ていた。幼稚園の庭にある鉄棒でもやっていた。その頃私には友達がいなかった。それに加え、一人っ子で一人遊びが得意だったので、思う存分覚えたての気持ち良さを味わえた。幼稚園の先生は「あらー、奈緒ちゃん、鉄棒がお上手ねえ」と褒めてくれた。
しばらく鉄棒で遊んでいるうちに、別に鉄棒でなくても、股間にある程度硬度のある物を当てれば同じ気持ち良さを楽しむことができるのではないかと思いついた。
私はベッドの上の枕に手を伸ばした。寝転がって足を広げ、枕を股間にぎゅっぎゅっと押し付ける。鉄棒の気持ち良さがよみがえる。
私は自分の部屋で、この気持ち良さを感じることができることに嬉しさを感じた。鉄棒遊びの代わりに、毎晩枕を股間に押し付けた。私の部屋は個室だったので、両親の目を気にせず、それをすることができた。
その行為が、マスターベーション、オナニー、自慰と呼ばれることだと知ったのは、小学校五年になって、性教育の授業を受けた時だった。
男女の生殖器のしくみと名称を教科書の図で学び、受精のしくみを学んだ。
教科書によると、男子は十一歳頃からマスターベーションをするらしい。女子のマスターベーションについては、特に何も書かれていない。
私はひどく落ち込んだ。
女はオナニーなんてしない生き物なのだ。女のくせにオナニーをしている私は助平で嫌らしいのだと、激しく自己否定し、オナニーなんかやめようと心に誓った。
しかしその誓いは毎日のように襲いかかる肉欲の疼きに負け、脆くも崩れ落ちる。
私はオナニーをやめることができなかった。やめることができないくらい気持ちが良かった。私は罪悪感に悩まれつつ、枕を股間に当てて快感を得た。
性行為というものを具体的に知ったのは、小学校六年生の時だった。
女子の友達の一人が、「漫画を貸してあげる」と言って家に遊びに来た。その女子は、マナちゃんといった。顔が可愛く、明るくて活発で、負けず嫌いな子だった。私は漫画が好きだったので嬉しかった。
マナちゃんは私の部屋に入ると、「これ、貸してあげる」と言って、数冊のコミックスをテーブルの上に置いた。私は礼を言い、ありがたく借りることにした。
マナちゃんは唐突にコミックスを一冊手に取ると、「ねえ、これ何ていうか知ってる?」と、ページを開いて私に見せた。私はそのページを見た。
裸の女の人の上に、背中を向けた裸の男の人が覆いかぶさっていた。女の人はカエルのひっくり返ったような格好をしていて、気持ちの良さそうな顔をしていた。「ああー、いいわー」と台詞が書かれていた。
私はマナちゃんに「これ、何をしてるの?」と聞いた。何となく嫌らしいことをしていて、股に枕を当てることと関係があるのだろうとは思ったけれど、それが何をしているの行為なのか、はっきりとわからなかった。
「奈緒ちゃん、知らないの? 遅れてるー」
マナちゃんは嬉しそうだった。
「これね、セックスって言うんだよ。硬くなった男の人のあそこを、女の人のあそこに入れたり出したりしてるんだ」
保健の授業で何となくしくみはわかっていたけれど、行為そのものをしている絵を見たのはこれが初めてだった。
「奈緒ちゃん何も知らないだろうと思って、この漫画を持ってきてあげたの。これを読めば男と女のことがよくわかるようになるよ」
そう言って、マナちゃんは漫画を置いていった。
私はその漫画をその日のうちに一気に読んだ。
一組の若い男女がお互いを好きになり、交際を経てセックスに至り、二人は結ばれる。といった内容だった。セックスシーンは彼女が見せてくれたページと、その後二ページほどしかなく、思っていたよりも具体的な性行為の参考にはならなかった。
セックスは恋愛の延長線上にあるものだということと、最中に、女が「ああん」とか言う声は、あえぎ声と呼ばれるのだということはわかった。
私はもっとセックスのことが知りたいと思った。知りたいと思うと同時に、そんなことを知りたいと思う自分は下品で嫌らしくて助平な、何か下等な生き物に思えて自己嫌悪に陥った。
それでも知りたいという好奇心の方が勝り、アダルトDVDはないものかと家中を探し回った。よりリアルな、実際の動きのあるセックスが観てみたかった。
それは以外にもあっけなく、両親の寝室にある押入れの奥から見つかった。パッケージが、男子に媚びるような目つきで乳房を露呈させた女の人の写真だったので、すぐにそれとわかった。
私は両親の留守を見計らって、そのDVDをプレイヤーにセットした。
この頃、両親は共働きで、私は鍵っ子で一人っ子だったので、こっそりアダルトを観るのには最適な環境だった。
私はごくりと生唾を飲み込み、DVDが再生されるのを待った。
やがて画面が映し出された。男の人と女の人がベッドの上に並んで座っている。二人は何やら楽しそうに喋っている。
すると突然、男の人は女の人を抱きしめてキスをした。
さっきまでのお喋りによる騒がしさが嘘のように、二人は寡黙にお互いの唇を貪るかのようにキスを続ける。
おそらくこれがディープキスというものなのだろう。あの二人の口腔内は、互いの舌で絡み合っているに違いない。私は絡み合う舌と唾液を想像し、軽く吐き気を覚えた。
男の人は、唇を離さないまま女の人の衣服を、器用に脱がしていった。女の人の乳房が露わになる。
男の人は唇を乳房に移動させ、舌を回転させたり押したりして乳首を舐めている。男の人の両の手は、乳房をわしづかみにしたり、乳首の先端をつまんだりしている。女の人の呼吸が荒くなってゆく。
男の人は乳児みたいだと思った。女の人ははぁはぁと喘いでいて気持ちが良さそうだった。
胸って気持ちがいいのかな。膨らみかけた自らの乳房を揉んでみたけれど、何も感じない。乳首をつまんでみると、少し痛みが走った。
男の人は女の人の股間を舐ようとしていた。女の人の足が開かれ、女性器のアップが映し出される。キスの時とは違う種類の吐き気が私を襲った。
グロテスク。まさにその一言しか言い表しようがない。ナメクジとかミミズとか、何かそういった生き物が数匹住んでいそうな場所だ。
しかも、そんなものが自分にも付いているなんて。私は今まで自分の性器を表面上でしか見たことがなかったのでわからなかった。
手鏡を取り出し、パンティを脱いで、そこを映した。先ほどの画像と同じような、グロテスクで醜いものが映し出された。
画像の女の人のとは少し違い、私のそこは、小陰唇といわれるヒダが左側だけ大きく、大陰唇からはみ出しそうな勢いで伸びている。色も浅黒く、画像の女の人のピンク色とは程遠い。
私のそこは、初めて見てショックを受けた女の人のそこよりも醜くグロテスクだった。
私は人と違うのだろうか。小陰唇がこんなにも拡がっているのは、きっと正常ではないのだろう。
かといって、親にも、友達にも、ましてや先生になんて、とてもじゃないけれど、恥ずかしくて相談なんかできない。私は一生セックスしない、と心に誓った。こんなにも醜く異常な器官を他人に見せることは罪に等しい。
男の人は、グロテスクな女の人の性器に口をつけ、乳首にしたのと同じような舌の動きでそこを舐めた。こんなものを舐めるなんて、男の人はどうかしているんじゃないだろうか。女の人は、ああ、ああ、とあえぎ声をいっぱい出していた。きっとすごく気持ちが良いのだろう。
布地越しに枕を押し付けるだけでも気持ちがいいのに、この女の人は平気で醜い性器を晒し、男の人に舐めさせている。
この女の人の無神経さが羨ましい。けれど私は、彼女と違って異常性器を所持しているのだから、こんなものを男の人に見せるわけにはいかない。見たら男の人は気分が悪くなって吐き気を催してしまうに違いない。
男の人は、膣の中に中指を差し入れ、何度も激しく往復運動させた。
女の人は悲鳴を上げて叫び、やがて尿道から透明の液体を大量に放出した。
この液体は何だろう。指を膣に入れるのは、痛そうだ。
男の人は勃起したペニスを女の人の口元に近づけた。女性器を先に見ていたせいか、思っていたよりもグロテスクではなかったけれど、それは予想以上に長くて太かった。
女の人は男性器の亀頭の部分を舐めた。ソフトクリームを舐めるように舌を動かし、舌は竿の方に移動した。竿に数回舌を這わせた後、竿と亀頭を全て口内に含めませ、頭を上下運動させた。男の人は無言でその様子を眺めている。顔は無表情だ。気持ち良くないのだろうか。私は男の人の感度よりも、巨大なペニスを根元まで含み込む女の人の口の大きさに感心した。
いよいよ結合が行われた。
男の巨大なペニスが、女の小さなヴァギナへと飲み込まれてゆく。あんなに大きな物が、なぜあんなに小さな穴に入るのだろう。女は痛がるどころか嬉しそうだ。
男は往復運動を始める。女は気持ちの良さそうな顔で、叫び声ともとれるあえぎ声を発する。
男女は様々な格好になり行為を続ける。
マナちゃんから借りたコミックスと同じ格好から始まって、犬のような格好になったり、向かい合ってみたり、男に抱きかかえられたり、あらゆる格好で上下運動を行った。
女は何度も「行くー、行くー」と叫び、男の動きが激しくなると、「あー、行っちゃった」
と言って、弓なりに体を反らせ、ひくひくと全身を痙攣させた。
このときに、「行く」というのは、快楽の絶頂時のことをいうのだと学んだ。
最後に男が「行く」と言い、ペニスを抜いて白い液体を女の腹に垂らした。腹の上に出す理由はわからないが、おそらくこれが精液なのだろう。
そこで画像は終わった。プレイヤーの電源を切り、パンティの上から、そっと股間に手を当てると、パンティは漏らしたわけでもないのに濡れていた。
歩くと、股間に何かねっとりとしたものがまとわりついている感覚があった。これは何だろう。私は病気なのだろうか。
パンティを脱ぎ、指でヒダに触れると、ぬるっとした感触があった。クリトリスを指で刺激すると、電流が通ったような快感が、体に走る。
ぬるぬるした液体が、ちょうど指との潤滑油になって、指で直接触っても痛いどころかすごく気持ちが良い。
ああ、触れたりしても痛くないように濡れるのだ。だからペニスを入れても痛くならないのだと、身をもって実感した。それでもあんなに大きな物を挿入するのだから、初めての時はすごく痛いだろう。そして徐々に慣れてくれば、ペニスでも快感を得られるようになるのだろう。
私はそんなことを学び、考えながら、ひたすらクリトリスを刺激した。先ほど観たばかりの映像を頭に思い浮かべながら下劣な性器を刺激した。
あえぎ声を小さく漏らしながら指を動かしていると、快感は次第に増していく。すると突然子宮全体が収縮し、ヴァギナが痙攣を起こした。
それと同時に、さっきまでの肉欲は一気に冷めていった。これが「行く」ということなのだろうか。私は新たな快感に目覚め、同時に自らの嫌らしさに嫌悪感を抱き、またオナニーをしてしまったことに罪悪感を抱いた。
中学校に入学したばかりの頃、乳首の快感に目覚めた。初めてブラジャーをつけてから間もない頃だった。
ブラジャーを着けることがまだ習慣になっていなかった。そのため、その日はついうっかりブラジャーを着けないまま登校してしまった。
幸い制服のセーラー服は紺色で、まだ夏服ではなかったために生地もある程度厚かった。
それゆえ乳首が透けて、男子に見られる心配はなかった。けれど私は、着けている時と同じくらいに落ち着いて過ごすことはできなかった。
家を出、学校へと向かう途中、歩くたびに両の乳房が上下に揺れ、乳首がセーラー服の布地に当たって擦れた。そのたびに、股間に枕と同様の、それでいて異なる妙な気分に襲われた。
一度家に戻ってブラジャーを着けてこようかとも考えたが、それをしてしまったら遅刻してしまうほどに時間の余裕はなかった。
私は妙な気分に襲われつつも、何とか学校にたどり着いた。そして平然とした顔をして授業を受けた。
運が悪いことに、こんな日に限って体育の授業があり、その内容はマラソンだった。セーラー服と同様に、ジャージの上から乳首の透ける心配はなかった。
「今日はグランド十周のタイムを計るぞ」
体育教師ははりきって説明している。皆憂鬱そうに見えたが、私はさらに憂鬱だった。
男子のタイムが計り終わり、女子の番になった。私はノーブラでマラソンをしなければならない。
「いくぞ。用意、スタート」
教師はかけ声と同時にストップウォッチのボタンを押した。女子の群れが一斉に走り出す。私も波に乗って走り出した。
予想通り乳房が揺れ、乳首がジャージの布地に当たって擦れた。その快感は大きく、徒歩の時の比ではなかった。そしてそれは、グランドを周回するごとに増していった。
「あ。は、はっ、はぁ」
私はあえぎ声を呼吸の乱れと誤魔化して、教師に許されるだろうと思われる範囲で、ゆっくり走った。当然ビリで、トップの子と周回遅れにまでなった。
走るのが遅く、呼吸も人一倍荒い私に向かって、教師は「おーい、園田がんばれよー、このままだとビリケツだぞー」と応援しつつも、目線はしっかり私の揺れる乳房を追っていた。
男子生徒の多くは、見てはいけないものを見るかのように、ちらりと私の胸元に視線を向けたかと思うと反対方向にそらし、そして再び胸元に戻した。中には遠慮なしに、じーっと揺れるそこを見て、鼻の下を伸ばしている奴もいた。
「あっ。はっ、はあっ、はあっ」
私は見られていると思うとますます興奮してしまい、呼吸に見立てたあえぎ声は、さらに激しくなってゆく。
タイムは最悪だったけれど、何とか無事に完走し、授業が終わったと同時にトイレに駆け込んだ。
個室に入り、パンティを下ろすと濡れていた。
私はオナニーしたかったのを我慢して、ペーパーで愛液をふき取ると、濡れたままのパンティを穿きなおした。今度オナニーする時は、乳首も弄ってみよう。そう思いながらトイレを後にした。
気持ちが悪かったけれど、それを穿いたまま何食わぬ顔で残りの授業に出た。
中学時代は、セックスへの興味と好奇心で一杯だった。
両親の留守を狙っては、寝室に忍び込み、押入れをあさってはアダルトものの雑誌や漫画、DVDを物色した。
それらは全て、表紙や雰囲気から察するに、男性向けのものだった。
私が小学生だった頃は、DVDが一本しかなかったのに、中学に上がってから、毎月一本か、一冊のペースで増えていった。
私は頻繁に押入れをチェックし、新作が入れば必ず読み、観た。そして興奮できるものがあればオナニーをした。無修正ものの映像を観ると、私よりもグロテスクな女性器を所有した女性をちらほら見かけた。私は少し安心感を覚えた。
性知識は小学校の頃に比べ、格段に増えた。その増えた知識を教室で話すこともなく、ひたすらオナニーのために用いた。
空想のみでオナニーをすることも多かった。
例えば、歩いていたら見知らぬ男に連れ去られて強姦されたり、学校で架空の先生に襲われたりと、非現実的なことを妄想した。
見知らぬ男女がセックスしている場面を思い描いてすることもある。
私の空想に出演する男の人は、皆筋肉質で、厚い胸板と太い腕を備え、腹筋が割れている。
私は裸になって、筋肉質な男の指にそうされていると想像しながら、乳首をつまみ、愛液で塗れたクリトリスを捏ねる。
やがて痙攣とともに絶頂を迎え、罪悪感がよみがえる。罪悪感に襲われながらも、ヴァギナはペニスを欲しがって疼いた。
クリトリスで絶頂を迎えると、なぜかヴァギナに何かを挿入したくてたまらなくなってきていた。
そのたびに、ボールペンやリップクリームを入れてみようかと試みるのだけれど、いつも未遂に終わる。
それらを手に取って、入り口近くに持っていくと、どうしても怖くて仕方がなくなるのだ。
私は満たされない肉欲を抱いていた。その満たされない思いを幾度も重ね、オナニーじゃなくて、実際にセックスがしたいと思うようになった。けれど、セックスしたいと思うような男の人は身近にいなかった。クラスの男子はあまりに子供だし、男の先生は溢れるような生活臭を放っている。
それに私は、性器やくびれのない裸を見られることにとてつもなく羞恥心と抵抗を感じる。
こうして何年も、クリトリス刺激のみの悶々としたオナニーをして過ごし、私は高校二年生になった。
「昨日、初体験しちゃった」
月曜日の朝、まだホームルームも始まっていない教室で、マナはこっそり私に耳打ちした。私はしっかりと握っていたシャープペンシルを床に落としそうになった。セックスどころか男の子と付き合った経験もない私は、嫉妬と焦燥感を覚えた。
マナは幼馴染で、幼少の私にコミックスを貸してくれた。彼女は幼い頃から男の子の気を惹くことばかり考えていたけれど、その発言は予想外だった。
彼女は学校行事をそつなくこなし、勉強も運動も平均以上に出来て、アイドル顔負けの愛らしい顔立ちに小柄な体で、愛想良く意中の男子に話しかける。男子は一瞬にしてマナの虜になる。
マナはこうして幼い頃から何人もの男の子と付き合ってきた。私はそのたびに、交換ノートで話したこと、一緒に登下校したしたこと、どこそこのテーマパークに遊びに行ったこと等の話を聞かされた。
彼女にとっての男女交際における最終点はライトキスだった。誰々君の唇は柔らかかった、硬かった、荒れてがさがさだった。という話を聞いた後、しばらく経つと、別れたと言って別の男子と付き合い始める。
マナは男の子が好きなのではなく、恋愛における肉体関係のプロセスが好きなんじゃないだろうか、と私は思っていた。それでもセックスまでしないのには、何か理由があるのだろうと思っていた。私と同じく、裸体や女性器を見せることへの恥じらいだとか、膣内に物体を挿入するのは怖い、といった類の理由があるのだと思っていた。それが急に初体験をした、というのは、一体どういう風の吹き回しだろう。そう思い、私は彼女に聞いた。
「どうしたの? いつもキスまでしたら、飽きたって言って別れていたのに」
「そうなんだけど、私もそろそろいいかな、って思って」
「いい、って、何が?」
「やあねえ、ロストバージンに決まってるじゃん」
「ふうん。そうなんだ。そんなに斉藤くんのこと、好きなんだ」
私は素直にそう思ったので、言った。恥や恐怖を超えてでも合体したいと思うほど好きになってしまった結果、そうなったのだと思った。
「そういう訳でもでもないんだけど。そりゃ、斉藤くんのことは好きだよ。かっこいいし、下級生にも人気あるし。でも、別に初めての相手が斉藤くんじゃなきゃ嫌だ、って思っていたわけでもなくて、何ていうか、たまたま時期が重なったって感じ」
「え、どういうこと? 時期って?」
私は予想外のマナの答えに訳がわからなくなった。
「ファッション誌とか見てるとさ、よく載ってるじゃん。初体験の年齢とか。そういうの読んでると、十七歳までに体験しないと遅い、とか、高校生のほとんどは経験済み、とか書いてあって。私、流行とか敏感だから遅れてるのは嫌なのね。だから、あーやばいなー、もうすぐ十八になっちゃうなー、とか思ってて、その時たまたま斉藤くんと付き合ってたから、じゃあ初体験済ませておこうかと思って、しちゃった」
「怖くなかったの? 初めてって痛いって聞くし」
「怖いっていうよりも、焦りの方が強かったかな。ここでしとかなきゃ、世間から遅れちゃうと思って。それにどんなのか興味もあったし。痛かったけど、思ったほどではなかったよ。斉藤くん、意外と慣れてるみたい」
「自分のあそことか見られるの、恥ずかしくなかった?」
「ていうか、男のアレを見せられるくらいなら、私のあそこを見せたほうがましって感じ」
ガラリと戸を開け、スーツ姿の若い男教師が教室に入って来た。生徒たちは気だるそうにそれぞれの椅子に向かい、着席した。マナもその生徒たちの流れに乗り、自らの座席に向かって椅子を引き、腰を下ろした。
私はそのマナの動きを目で追っていた。彼女の傲慢さと図々しさ。浅はかで流されやすく、主体性のないところ。性体験の相手に困らないこと。それらを羨ましいと思うと同時に激しい嫌悪感を覚えた。
男性器よりも女性器のほうが遥かに醜いと思っている私には到底できない行為だ。
だから私は、オナニーで我慢する。女体には乳首とクリトリスしか存在しないかのように激しくそれらを指でつまみ、痙攣するまで捏ねる。それは週に一回だったり、毎日だったり、三日に一回とか、月に一回とか、頻度はまちまちだったけれど、日常生活の一部であるかのように行った。誰にも見られないようにこっそりと。罪悪感を重ねつつ、体の欲求に勝てずに、その行為を続ける。
高二になっても、オナニーの話をする女子はいなかった。男子がよく、こんなことを話しているのを小耳に挟んだ。
「俺、昨日あのビデオで五回も抜いちゃったよ」
「本当か? 抜きすぎだって」
「俺なんて一日で十回は抜いたことあるぞ」
「十回? すげえ。おかず何?」
「もっぱら空想力よ」
「空想だけで十回も? お前本当すごいよ」
私はこんな時、男子が羨ましかった。男子になりたいとさえ思った。男だったら、あっけらかんとオナニーの話ができる。ペニスを擦るだけで性欲を満たすことができる。
私は知らない男に犯されている自分を想像して、性器の摩擦だけでは満足できずに乳首を捏ねる。痙攣しても満足できず、突起物を探してさまようのだけれど、臆病さ故に先に進むことができずにいる。
私は醜い女性器を装備して、恥ずかしいオナニーという行為に耽る、性欲に溺れて浮き上がれない、最低最悪の生き物だ。
オナニーなんてする女は、この世にいない。部活や勉強に励む彼女たちが、クリトリスを触って喜んでいるなんて想像できないし、彼女たちはきっとそんな下劣な行為はしないのだろう。
私はどうしてこんなにも性欲が旺盛なのだろう。それとも実は、女は皆、私くらいに性欲があってオナニーも頻繁にしているのだけれど、隠しているだけなのだろうか。
わからない。どう考えてもわからない。ただ、私はオナニーをいけないと思っていてもやめられない、下劣で卑しい女だということはわかっている。
ペンやリップクリームじゃなくて、本当は男根を挿入して欲しいと思っている。男根を挿入して、一体になりたいと思っている。
完全に一体になることはできないのだから、せめて性器だけでも一体化したい。そう思えるほどの男に出会うことができて、相手も私を愛してくれたなら、この醜い性器を曝け出してもかまわない。
幼い頃から男の子に見向きもされず、高校に入学して、夢中で好きになった相手に告白しては振られ、年頃の女の子たちが次々と処女喪失を迎える中、私は一人、ベッドでオナニーに耽る。
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2009年03月11日 | コメント&トラックバック(0) | トラックバックURL |
カテゴリ: 女子高生